岡山県公安員会指定 犯罪被害者等早期援助団体 Victim Support Center Okayama
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被害者サポートセンターおかやま は、犯罪被害者を支援する岡山県の民間団体です。

「性犯罪被害者の心理」講演全文    その1

大阪高等検察庁 田中嘉寿子検事


平成27年7月25日、
岡山市の岡山市地域ケア総合推進センターで
「犯罪被害者支援を考える市民のつどい」

”NO!”と言えなかった性被害者 
を行いました。
 

 大阪高等検察庁 田中嘉寿子検事が

「性犯罪被害者の心理」
という講演を行いました。
 

さんこんにちは,田中と申します。今日は被害者支援の集まりにこんなにたくさんおいで頂き,ありがとうございます。また岡山にお招き頂き,たいへん光栄でございます。


自己紹介ですが,一般的に,検事になったらどのように被害者と関わるのかという例として御紹介したいと思います。

 検事になっても,ドラマと違って殺人事件を捜査するということは,それほど多くないのですが,新任のとき,捜査主任だった先輩検事から,「君,御遺族の調書取って」と言われました。これが新米にとってはとても難しかったです。なるべく御遺族の気持ちに沿って言葉にしていこうと思いましたが,非常に苦労しました。被害者の御遺族のお話を聞くということは,こんなにも難しいのだなということを最初に感じましたので,その時のことは忘れられないですね。

 それから福岡で交通部に配属されると,たくさんの御遺族にお会いしました。交通事故の御遺族の方々は,大事な家族が亡くなるという点では殺人事件と同じ結果がもたらされているのに,刑が随分違いますので,そのことによるギャップに苦しめられることがあります。まわりの反応も違いますし。

 後に交通事件がきっかけで被害者通知制度が全国に広まるんですが,当時は一部の検察庁でしかやっていませんでした。被害者通知制度というのは,被害者の方に起訴・不起訴の結果や裁判の結果などを通知するという制度です。検察庁の職員にとっては,昔はしなくてよかったのに追加された業務なので,試行庁があっても全国にはなかなか広まらなかったんですが,片山隼君事件をきっかけに平成9年からは全庁で被害者から申し出があれば,通知するようになりました。

 私は,その後しばらく検察の現場を離れ,大阪地検に戻り,大阪の南部の堺支部に配属されました。堺は,「強」のつく事件の多いところでした。強盗・強姦・強盗殺人などです。御遺族からヘビーなお話を聞いて遺族調書を作成しなければならなかったのですが,御遺族からどのように聞くと聴取漏れがないか,系統立ててお聞きするのが難しかったのです。

この時参考になったのが,グリーフケアで有名なアルフォンス・デーケン先生の「死とどう向き合うか」という本です。御遺族が死とどう向き合うのかというのを読んで,皆が同じプロセスを踏むわけではないんですが,大変参考になりました。例えば,すごく攻撃的な御遺族がいらして,怒りが収まらなくて検察庁に来てもがーっと怒りをぶつけてこられるのです。私の前に対応した検察職員の皆は,「あの人が来ると大変なのよ」と対応に困っていたのですが,デーケン先生の本を読んでから対応すると,この方は今,ものすごく辛い時期にいるんだなと受け止められるようになりました。

 犯人に対して怒るのが普通だと思われがちですが,被害者にとって犯人は怖い人であり,怖くて怒りをぶつけられないことが多いのです。性犯罪の被害者でも同じですが,加害者というのは被害者にとって怖い存在であり,加害者について思い出すのも考えるのもつらいので,加害者に対して怒りを発散できるパワーのある人は滅多におられません。では,自分に降りかかった理不尽な運命に対する怒りを誰にぶつけるかというと,やはり目の前にいる,怒りをぶつけても安全な身近な人になります。つまり,家族に八つ当たりしたり,家族同士でけんかされたりしがちです。でも,家族にすら怒りをぶつけられない人は,警察や検察とか,怒りをぶつけても自分を攻撃するはずのない人にぶつけます。病院でも医者や看護婦に怒りをぶつける患者さんや御家族がいるかもしれませんが,病気という理不尽な運命に対して,誰かに怒りをぶつけたいとき,その相手は病院の職員しかないですよね。そういう心理状態の被害者・御遺族は,お身体も壊している人がとても多くて,よく聞くと,心臓が最近悪いとか蕁麻疹が治らないとか,どこかその人の弱いところに不調が出ている人が多いです。PTSDも非常に重く,PTSDチェックリストを使いながら聞いていくと,すごくたくさん該当される人が多いです。被害者は11人違うので,マニュアル化するのは不適切だと思われる方いるかもしれませんが,チェックリストを利用しながら質問すると,被害者の気持ちを多少はうまく聞けるようになりました。

それから,東京地検交通部でも御遺族の話を聞くことが多かったです。その後,検察庁でも,だんだん被害者への配慮が進みまして,性犯罪はなるべく女性検事が対応することが増えました。それで,女性・子供が被害者の事件については私が担当することが多くなりました。その後,検察庁から大学に派遣されて時間が取れましたので,「性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック」を書きまして,去年くらいから被害者団体によく講演に招かれるようになりまして,今ここにいるわけです。

















今日みなさんに覚えていって頂きたいことは,防災用語の「正常性バイアス」です。いまや小中学校の防災教育に取り入れられています。あとストレス反応とトラウマ反応。これは精神医学とか心理学の用語ですが,病院にPTSDでこられる方はトラウマ反応の状態です。性犯罪の立証で大事なのはそれに至る前のストレス反応の時期です。病院の治療者に大事なのはトラウマ反応の方ですので厳密には関係ないかもしれませんが,性犯罪で被害者供述の信用性について立証する責任を負う検察官にとってはストレス反応の方が大事です。

次に,人間は何を覚えているのかという情動記憶,なぜ抵抗できないのかという抵抗が難しい理由と,それをどうやって聞いていくかという問題についてお話しします。時間があれば,情状についてもお話ししたいです
















こういう講演があるといつも質問させてもらっているのですが(皆さんへの質問),
今日,帰りがけにひったくりに大事な現金を入れたカバンをとられて怪我したとします。すぐ110番通報する方,どれくらいいますか? 皆さんしますよね。絶対しないぞという人いますか?いませんよね。普段,警察なんか,と批判してお られる弁護士さんでも皆さん通報されます。

















では,男性は自分にとって大事な女性のことだと仮定し,女性は自分のこととして考えてみて下さい。今日,帰りがけにレイプされ怪我もしました,すぐに110番通報しますか?さすが,たくさん手が挙がってますね。今日はこの会場の5%を超えていたかもしれませんので,多い方です。内閣府の統計では3〜4%です。

次に,今日,銀行で大事な100万円をおろして後をつけられていたらしく,100万持ってるのは分かってる,金を出すか体を出すか選べ」と脅されたらどうしますか?お金が大事という人もたまにいるかもしれませんが,今どきお金を選ぶ人は少ないと思います。しかも強盗に100万円を渡して贈与だったんでは,と聞かれる人はいないと思いますが,レイプだと同意してたのではと言われることがすごく多いんです。どうしてそうなるのかということを考えながら,これから私のお話を聞いてください。


  • 性犯罪は有罪になりにくい   5つの抵抗義務

性犯罪の件数はとても多いです。雑駁な推計になりますが,強盗で検挙されてない人は年1500人くらいですが,性犯罪の加害者はその10倍くらいいます。1人で40件とか100件やる人もいるので,そうするともう少し少なくなりますが,検挙されない人が圧倒的に多い。被害を言わないことによって,野放しになっている人がとても多いのです。

今日は強姦を中心にご説明しますが,強姦のまわりにいろんな犯罪があります。これらの罪名を駆使しても,すべての被害届は出ないし,起訴することも難しいのが問題です。




























法務省でも性犯罪の罰則に関する検討会ができまして報告書ができているところです。そこで問題になったのは,そもそも法定刑が軽すぎるんじゃないのかということです。強姦罪の下限が3年なのを強盗罪の下限5年と同じくらいに刑を上げたらという話になっていまして,報告書ではそれが多数派でした。たぶん法定刑は上がるだろうと思います。女性団体だけでなく性的マイノリティの団体も声を上げましたので,女性に被害が限られている強姦罪の性差をなくしましょうということも通りそうです。親告罪は告訴がいらない方向に変わる見込みです。

しかし,被害者にとっては抵抗が難しいんだから暴行脅迫要件をもう少し緩和して下さい,という点については,今回は変わらないことになりました。


強姦罪を強盗罪と比べる理由は,人を暴行脅迫して人から何かを奪うということで強盗と強姦は共通しているからです。罰則の内容について強盗罪は問題にならないのになぜ強姦罪だけ問題になるかといいますと,強姦罪は,いきなり無罪になることがあるからです。強盗罪は暴行脅迫が弱いと恐喝罪があるので,いきなり無罪になることはないのに,強姦罪はいきなり無罪になってしまいます。法律に穴の多い犯罪ですので,立証も難しいのです。

法律というのは犯罪の構成要件が全部揃わないと有罪になりませんし,有罪の見込みがないと起訴できません。構成要件の中で,故意があるかどうかの立証も,普通の犯罪と異なり,性犯罪は非常に難しいです。また,被害者の同意は,傷害罪や強盗罪では問題にならないのに,性犯罪では被害者が同意してるんじゃないかということが,よく問題にされ,争点になります。




この「被害者の5つの抵抗義務」というスライドの表は,私が勝手に作った個人的意見によるものですが,被害者に対して法廷でよく弁護士さんがする質問は,「なんでそんなところに付いていったんですか」「どうして通行人に助けを呼ばなかったんですか」「なんで抵抗しなかったんですか」「逃げるチャンスあったのになんで逃げなかったんですか」「なんですぐに警察に行かなかったんですか」,この5つは定番で聞かれます。ということは,被害者は,大抵これをしてないんです。裁判所からも疑問符を付けられてしまって,「あなたが抵抗しなかった/逃げなかったことは納得できないから,信用できません」という理由で,加害者が無罪にされてしまうことが多いです。

人が法的にやらないといけないということを「作為義務」と法律用語でいいます。「法は不可能を要求しない」という法格言どおり,作為義務を負わせるなら,作為可能性がないとだめなのです。被害者に抵抗義務を負わせるなら,抵抗可能性が必要であり,抵抗が困難なのだということを今日はお話したいと思います。それは,正常性バイアス,ストレス反応の凍りつき症候群,心を守るための防衛機制の一種である「否認」という心のメカニズムなどです。

法律を勉強した人は,不作為犯の構造と強姦の被害者が置かれた構造がとても似ていることが分かると思います。5つの義務が被害者に課せられていて,それをしないと被害者の話が疑われる,つまり,供述の信用性が否定されることになります。

そして,被害者に対し,不作為の理由については,「なぜ」ではなく,「もし〜どうなると思いましたか」で聞きます。例えば,回避義務違反については,「何でついていったんですか?」と聞くと,すごく答えづらくなりますので,「もし,ついていくのを断ったらどうなると思いましたか?」と聞くと,セクハラの被害者が,上司に誘われてちょっとだけと思って付いていった,まさかそんなことされると思っていなかった,という場合,上司の誘いを断ったら,上司が機嫌を損ねて,会社にいづらくなるかもしれないと思って断りづらかったんです,という答えが出来ます。

抵抗義務違反についても,「抵抗したら犯人を怒らせて殺されるかもしれないと思った」というのも多くの被害者が言います。逃走義務違反についても,「なんで逃げなかったの」と聞くと逃げなかった被害者の自己責任として責めているように聞こえますが,実際は,ストレス反応でそもそも体が動かなくなっていて,体や足に力が入らなくなっていますから,逃げようと思っても膝がガクガクして動かないし,犯人の方が絶対足が速いに決まっていますから,「もし,逃げようとしたら,逃げ切れなくて犯人を怒らせて殺されるかもしれないと思った」という答えが出ます。

援助要請義務違反についても,弁護人からは,「大声を出せば隣の部屋に聞こえたのではないか」とか,「通行人が通ったのに何故助けを求めなかったのですか」とか言われます。しかし,ストレス反応によって気管支が収縮しますので,ほとんどの人は,「声が出なかった」と言います。身体的に声が出る状態になったとしても,見えてても助けようともしない通行人を本当に信頼できますか?もし通行人に「助けて」と言って無視されたら,犯人を怒らせるだけだから怖いですよね。関わりたくないからと足早に立ち去られたら,被害者はお終いですからね。

直後に被害申告しない理由として最も大きいのは,「なかったことにしたい」という気持ちです。被害者が一番希望するのは,被害がなかったことにしたいということです。被害者の事情聴取で,「犯人に何を一番望みますか」とお聞きすると,「被害に遭う前の自分に戻してほしい」と言われます。かなわないことは分かっているけれど,一生元の自分には戻れないかもしれない,せめて自分が回復の努力をする間,あなたは刑務所に入っていて,最低限の安心を私にちょうだい,だからなるべく長く刑務所に入っていて,という気持ちです。しかし被害届を出さない被害者の場合,その最低限の安心すらもらえないですね。彼は自由に外をうろうろしているので,非常に怖い。そういう怖い目にあって 無理やり自分の中だけでなかったことにするのは,とてもつらいと思います。



被害者になぜ抵抗義務が課されるのかについて,ジェンダーの学者の先生は,「刑法は明治時代にできて,当時女性には権利能力もなく,家父長制度の従属支配下にあったからである」と言われます。私は,夜這いの風習があったことも大きいのではないかと思います。お祭りのときは夜這いしてもOK,いやだったら抵抗して下さいというおおらかな農村風景が昔は存在していたので,その影響も大きいでしょう。

 被害者の回避義務違反については,不作為犯の作為義務がどういう場合に発生するかというのと似ています。被害者が自分から被疑者に会っている場合,特に出会い系サイトを使ったりすると被害者の供述の信用性が低くなります。被害者が自分から加害者と2人きりになった場合,例えば,カラオケの部屋に入って襲われたとしたら,カラオケだけのつもりだったのに何でOKしたことになるんだ,って被害者は思います。また,抵抗義務違反については,貞操の危機だったら必死に戦って逃げるのが当たり前じゃないか,という誤った前提があります。回避も抵抗も全部困難ですよ,ということをこれからお話していきたいと思います。





もともと強盗罪と違って強姦罪は非常に立証が難しい構造になっています。強盗と違って,強姦は男女の腕力差があるから,ほとんど道具は要りません。ベテランのレイプ魔ほど道具を使いません。何十件もやっているレイプ魔だと,最初素手で行って失敗すると,今度はナイフを持っていきますが,慣れてくると,ナイフを持ち歩くと職務質問でひっかかるので,何も持っていかなくなります。慣れたレイプ魔ほど,何も持たずに簡単にできてしまい,結局,物証が残りません。

犯人は,もともと人気のない場所を選ぶので,証拠は被害者の供述のみになってしまいます。そのため,被害者に捜査に協力していただく必要性がとても高いんですね。それも,被害者にとってはしんどくて,証人尋問でうまく証言し,弁護人からの反対尋問にもきちんと証言できないと,被告人が無罪にされてしまうリスクがあります。


強姦罪は,加害者と被害者とが面識がない場合とある場合があります。面識のない場合,被害者は,大人しい人がよく狙われるんです。よくあるパターンは,駅から徒歩15分くらいのところに住む方は,タクシーを使わないんですね。部活や残業の帰りだと夜8時〜10時くらいに歩いて家に帰ります。マンションのエントランスなどで襲われると,ほとんど誰にも見られません。被害者が,被害後,親や彼氏とかを呼んで,ご本人の意思と関係なく110番通報されると,すぐ被害届に繋がります。これが最も刑事事件化されやすいケースです。

実際の性犯罪は,面識があるケースのほうが多いのです。知人間の方が圧倒的に多いので,一段と被害届を出しにくい。




もともと強盗罪と違って強姦罪は非常に立証が難しい構造になっています。強盗と違って,強姦は男女の腕力差があるから,ほとんど道具は要りません。ベテランのレイプ魔ほど道具を使いません。何十件もやっているレイプ魔だと,最初素手で行って失敗すると,今度はナイフを持っていきますが,慣れてくると,ナイフを持ち歩くと職務質問でひっかかるので,何も持っていかなくなります。慣れたレイプ魔ほど,何も持たずに簡単にできてしまい,結局,物証が残りません。

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講演全文 その1 はじめに
その2 性被害者に起こっていること  正常性バイアス
その3 性被害者に起こっていること  凍り付き症候群
その4 性被害者に起こっていること  従順・懐柔反応
その5 性犯罪の加害者
その6 性犯罪の捜査 その1
その7 性犯罪の捜査 その

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性犯罪の件数はとても多いです。雑駁な推計になりますが,強盗で検挙されてない人は年1500人くらいですが,性犯罪の加害者はその10倍くらいいます。1人で40件とか100件やる人もいるので,そうするともう少し少なくなりますが,検挙されない人が圧倒的に多い。被害を言わないことによって,野放しになっている人がとても多いのです。

今日は強姦を中心にご説明しますが,強姦のまわりにいろんな犯罪があります。これらの罪名を駆使しても,すべての被害届は出ないし,起訴することも難しいのが問題です。




























法務省でも性犯罪の罰則に関する検討会ができまして報告書ができているところです。そこで問題になったのは,そもそも法定刑が軽すぎるんじゃないのかということです。強姦罪の下限が3年なのを強盗罪の下限5年と同じくらいに刑を上げたらという話になっていまして,報告書ではそれが多数派でした。たぶん法定刑は上がるだろうと思います。女性団体だけでなく性的マイノリティの団体も声を上げましたので,女性に被害が限られている強姦罪の性差をなくしましょうということも通りそうです。親告罪は告訴がいらない方向に変わる見込みです。

しかし,被害者にとっては抵抗が難しいんだから暴行脅迫要件をもう少し緩和して下さい,という点については,今回は変わらないことになりました。


強姦罪を強盗罪と比べる理由は,人を暴行脅迫して人から何かを奪うということで強盗と強姦は共通しているからです。罰則の内容について強盗罪は問題にならないのになぜ強姦罪だけ問題になるかといいますと,強姦罪は,いきなり無罪になることがあるからです。強盗罪は暴行脅迫が弱いと恐喝罪があるので,いきなり無罪になることはないのに,強姦罪はいきなり無罪になってしまいます。法律に穴の多い犯罪ですので,立証も難しいのです。

法律というのは犯罪の構成要件が全部揃わないと有罪になりませんし,有罪の見込みがないと起訴できません。構成要件の中で,故意があるかどうかの立証も,普通の犯罪と異なり,性犯罪は非常に難しいです。また,被害者の同意は,傷害罪や強盗罪では問題にならないのに,性犯罪では被害者が同意してるんじゃないかということが,よく問題にされ,争点になります。




この「被害者の5つの抵抗義務」というスライドの表は,私が勝手に作った個人的意見によるものですが,被害者に対して法廷でよく弁護士さんがする質問は,「なんでそんなところに付いていったんですか」「どうして通行人に助けを呼ばなかったんですか」「なんで抵抗しなかったんですか」「逃げるチャンスあったのになんで逃げなかったんですか」「なんですぐに警察に行かなかったんですか」,この5つは定番で聞かれます。ということは,被害者は,大抵これをしてないんです。裁判所からも疑問符を付けられてしまって,「あなたが抵抗しなかった/逃げなかったことは納得できないから,信用できません」という