裁判員・裁判官の方々へ
公益社団法人被害者サポートセンターおかやま
後藤 幸子
1 今年の5月14日、私は長男の嫁である裕子さんに出刃包丁で胸を 刺され、頭や手などにも数カ所の切り傷を負いました。特に左胸の傷は、胸の空洞部分に達していて、20分手遅れになれば、死亡して いたかもしれないほどの重傷だったのです。
私は81歳ですが、幸いなことにお医者様が驚くほどの早さで回復しました。
現在も傷口はまだ痛みますし、両手も手先が痔れていますが、私の生き甲斐でもある日本舞踊や大正琴の指導も再開しましたし、事件前とほぼ同じような生活ができるようになりました。
このような家庭内の事件で大怪我を負ったので、世間の人がどのように言うだろうかと気になりましたが、周囲の方々は何も言わず、以前同様に接してくれましたので、私も元気になれたのだと思います。
死ぬのと怪我をするのとでは、こんなにも違うのだとしみじみ思います。
2 私は、警察官や検察官の取調の際に、裕子さんについては「法に照らしてきちんと処罰してもらいたい。」とか「処罰は、裁判所にお任せします。」などと述べましたが、この表現では私の真意が伝わらないと思い、私の気持ちを述べたいと思います。
「お任せします」というのは、執行猶予がついて帰宅しても構わないという意味で言ったのではありません。これだけのことをしたのですから、刑期の長短はともかく、当然服役すべきものと考えています。「刑期については長くしてほしいなどと希望するものではなく、お任せします。」という意味で言ったのです。
裕子さんには、人の命を絶とうとすることがどれほど重大なことであるかについて、刑務所の中でよく考えてほしいと思います。執行猶予がついて自宅に帰って考えればよいほど軽いものではありません。これについては、私の中で譲ることができません。
3 服役を終えて帰宅したときには、人生をやり直してほしいと思います。なんらかの形で社会に貢献できる人になってほしいのです。
私はそのことを切に願っているのです。
私の息子からは、裕子さんとの協議離婚を決めたと聞いております。判決後に協議離婚するそうです。
私と息子は、裕子さんの将来のことが気にかかりました。そこで、裕子さんが服役を終えて社会に出たときに、経済的にそれなりの生活が営めるよう財産的な手当をしておこうと考えました。その結果、息子は、財産分与として裕子さんに裕子さん名義の年金貯金を渡し、年金分割もすることにしました。また、運用していた投資信託を150万円の内、60万円を裕子さんに渡しました。私は、慰謝料として裕子さんから40万円を貰い、この事件については金銭的には解決済みとしたのです。
このことは、私が裕子さんの行為を許したということではありません。
私は、裕子さんが私の命を絶とうした行為を許すことができません。
許すことができないけれど、裕子さんには、どんなに小さくてもいいから社会に貢献する人になってほしいのです。だから、十分なことはできませんが、将来の生活の経済的な基礎を整えたつもりです。
4 左胸の刺し傷が少しずれていれば、私の命はなかったかもしれないのです。刺し傷、切り傷は数カ所です。数回に亘り、包丁を振りかざし私の命を絶とうとしたのです。命の重さ、人の命を奪うことの罪深さを考えるには、刑期の長短はともかく、服役が必要だと思います。裕子さんは、それだけのことをしたと思います。
ただ、私は、裕子さんを恨んだり、打ちのめしたい気持ちにはなりません。私は、自分の命の尊さを噛みしめながら生きています。
裕子さんにも、命の尊さを心に刻んで生きてほしいのです。
どうか、私の考えを理解していただきたいと思います。