犯罪被害者等の実態と支援

「犯罪被害者等の実態と支援」 令和3年2月22日フォーラム講演要旨

 

-トラウマインフォームドな視点から見た他機関連携の必要性-

犯罪被害者の実態と支援

講師 大岡 由佳 准教授

警察庁の2018年の調査によれば、犯罪の発生件数は減少していますが、警察への通報率は、殺人・傷害でも48.8%、児童虐待は5.5%、DVが9.8%、性的な被害では20.1%と低く、犯罪の認知件数と実際に起こった犯罪の数は異なります。また、いじめ、ハラスメント、ヘイトクライムなど犯罪と認知されていない犯罪もあります。認知されているよりも多くの犯罪被害者やその家族が存在します。

犯罪被害者は被害を受けてからの身体的、精神的な影響も大きく、被害後に日常生活が行えなかったと感じた平均日数は、児童虐待(45.6日)で最も多く、次いで殺人・傷害(28.2日)、性的な被害(24.8日)となっています。しかし、加害者からの賠償を受けた被害者は、わずか8.8%、警察などの公的機関を含めどこからも支援を受けたことがないという回答が78.5%という実態があります。


内閣府の2018年の調査によれば、性暴力被害を受けたことがあるのは、女性の20人に1人、そのうち13人に1人は、無理やりに性交等された経験があります。また、このような被害について、女性の約6割は、どこにも相談していません。犯罪被害者支援における支援相談窓口は、地方公共団体や民間団体などありますが、それらの窓口に相談しない、支援を依頼しない人たちが多いのです。性犯罪被害者が支援を依頼できないのは、性に関するタブー感や人の傷つきに対する配慮のない社会が性暴力を語りにくくしていること、地方によっては支援機関へのアクセスが難しいこと、そして、性暴力の中で根拠となる法律が異なるため、行政の縦割りの弊害により被害者のたらい回しが生じていることが原因です。このたらい回しを防ぐために、ワンストップ支援センターというシステムに注目が集まっています。


他機関連携に必要なトラウマインフォームドケアの視点

PTSD(心的外傷後ストレス傷害)が、よく知られていますが、トラウマはPTSDより広い、心的外傷いわゆる心のケガを表す言葉です。地震、津波、台風などの自然災害、虐待、犯罪、性暴力、交通事故や、重い病気や怪我、家族や友人の死、別離、いじめなど、個人で対処できないほどの圧倒されるような体験によってもたらされる心のケガをさします。そして、子ども時代に自分の対処能力を超えたトラウマ的出来事を体験すると、アルコール依存や喫煙、仕事の欠勤などさまざまな問題行動や、糖尿病、肥満、脳卒中、がん、心臓病などの身体的問題・うつ、自殺企図などの精神的問題が出てくることが科学的に証明されています。

近年の脳科学研究では、トラウマとなる出来事が、脳自体を変容させてしまうこともわかっています。

トラウマとなる体験は、人の行動・こころ・からだを変えてしまいます。安全感がなくなり、他人を信頼し、依存することができなくなる。自分自身を信じられなくなって、自分は汚れていて、救いようのない失敗作だと感じてしまう。他人との対等な関係を築けず、他人からコントロールされ従順になるか、他人をコントロールしようとするという行動になってしまいます。

そこで、トラウマについて理解し、配慮ある関わりをするトラウマインフォームドケア(TIC)(Trauma Informed Care)が重要となります。トラウマとは、心的外傷。インフォームドは、十分に知識を持っているということ。ケアは、支援と言うことです。トラウマインフォームドケア(TIC)の原則は、次の6つです。


● 安全
(身体的・感情的な安全・話をするときにドアを閉めるなど)

● 信頼性と透明性
(誠実に対応する。これからの見通しを伝える。その人がいないところで、その人の話をしない)

● ピアサポート
(自助グループのような当事者同士のサポート。同じ体験をした一歩先を行く人に一緒にいてもらえるのがいい)

● 協同と相互性
(上下関係のない関係が重要。こちらから一方的にではなく一緒に行動する)

● エンパワメント、意思表明と選択
(もともともっている力を引き出す・お茶かお水かを選んでもらうなど自分の意見を表明してもらう)

● 文化、歴史・ジェンダーの問題
(文化的な背景を理解する・個人の価値観を尊重する)



他機関との連携でも、関係機関が手を取り合ってトラウマに配慮した一貫した対応をしていく必要があります。


全ての人に必要なトラウマインフォームドケア(TIC)の視点

犯罪被害者をはじめとして、色々な支援をする人たちだけではなく、実は、全てのひとにとって、このトラウマインフォームドケアの視点は必要だと、大岡先生は、述べられました。それは、大概の人が、生きている中で多かれ少なかれ心が傷つく体験をし、それを乗り越えた、もしくはそれを乗り越えようと生きているサバイバー(生き残った人)だからです。他人とコミュニケーションをとるとき、TICの視点を持つことで、他人に優しくなれます。そして、社会がこの視点を持つと、みんなが生きやすい社会が実現できるのです。

(支援員I)

TICでない対応               

TIC的な対応

 

※TICでは、
「安全感を高める」 「対処行動を学ぶ」 「ストレングスを高める」

出典:「視点を変えよう!困った人は、困っている人」
以下からダウンロードできます。
https://www.jst.go.jp/ristex/pp/information/uploads/ooka_trauma.pdf